D'Aquisto(ダキスト)について
D'Aquisto(ダキスト)はD'Angelico(ディアンジェリコ)の後続ブランドであり、D'Angelicoと同様にアーチトップを基本としたフルアコースティックギターを主力にしています。非常に美しいデザインとアコースティック感の強いサウンドから根強い人気を誇り、今なお愛用し続けるジャズギタリストが数多くいます。
歴史
創業者はジェームズ・L・ダキスト(James L. D'Aquisto)*
ダキストはD'Angelico創業者であるジョン・ディアンジェリコ(John D'Angelico)の弟子であり、彼の元でギター製作の方法を学びました。
1964年に師であるディアンジェリコが亡くなったことで、ダキストが彼の後を継ぐ形で工房を持つことになります。1965年より、自身の名前を冠したD'Aquistoブランドで製作を開始。洗練されたジャズギターとして非常に高い人気を誇るNew Yorkerを始めとしたD'Angelicoのモデルを引き継ぐとともに、D'Aquistoオリジナルのモデルも製作されます。
当初はD'Angelico同様、ネックマウント型のフローティングピックアップを取り付けたアーチトップギターを製作していましたが、70年代に入った辺りからダキスト独自のアイディアを反映させたギターの製作を開始。フラットトップのギターやボディにピックアップをマウントしたモデルなどを発表。
また、ダキストは木材の響きを重要視したため、弦振動に関わる部分から金属パーツを極力取り除き、木製のパーツを使用するスタイルへと移行しました。前述のD'Angelico人気機種であるNew Yorkerもテールピースやピックガード等を木製パーツに変更し、D'Angelico時代とはまた一味違うモデルへと昇華させました。
1995年、ダキストは奇しくも師であるディアンジェリコと同じ59歳という若さでこの世を去ります。D'Aquisto創設から亡くなるまでの間に371本のギターを世に送り出しました。
1980年代、ダキストがデザインした一部アーチトップギターをFender Japanに特注し、Fender D'Aquistoの名で生産されました(ロゴはFender)。また新井貿易のブランドであるAriaがD'Aquistoのアーチトップギターを研究して再現し、日本製D'Aquistoとして生産していました。現在はどちらも生産が完了しており、事実上D'Aquistoブランドのギター全てが生産完了ということになります。
*ジミー・ダキスト(Jimmy D’Aquisto)との表記もあり。
主な製品
DQ-NYE -New Yorker-(ニューヨーカー)

D'Angelico New Yorker(ニューヨーカー)のD'Aquisto版モデル。木材による弦振動を意識したダキストにより、主要なパーツに木製のものを採用するアレンジが加えられている。後に様々なモデルを発表したダキストですが、やはりこのモデルの美しさを基本としていたように思われます。
DQ-JZ(ジャズライン)

通称ジャズライン。フレイムメイプルの虎目が非常に美しいモデルです。フルアコースティックギターのエレキギターの部分に焦点を当てた設計で、よりウォームなサウンドを得るために合板を採用し、ピックアップもボディに直接マウントされる形になりました。ジャズギタリストの大御所、ジム・ホール(Jim Hall)が愛用していたことでも有名。
DQ-JZ-Jr(ジャズラインジュニア)

ジャズラインを小型化したモデル。ボディ幅15インチ、ボディ厚2インチという小型ボディとボディマウントの2ハムバッカーという、それまでのスタイルから脱却した新世代のD'Aquistoジャズギター。
DQ-AG Avant Garde(アヴァンギャルド)

ヘッドからボディエンドまで、それまでのD'Aquistoのスタイルを否定するかのようなデザインで製作された新しいスタイルのアーチトップギター。その名の通り、当時としては非常に前衛的なルックスのギターですが、サウンドに関するノウハウはそれまでのD'Aquistoのスタイルが活かされており、アーチトップギターにおけるふくよかなサウンドを最大限に引き出すべく設計されています。
DQ-Solo(ソロ)

Avant Gardを経て、更に前衛的なデザインとなったこのDQ-Solo。楽器全体で弦を振動させるという理念のもと設計されたモデルで、全体として上質な木材を採用しています。テールピース、ブリッジ、ピックガードはエボニー製。ダキストが目指した新世代のモデルがここで1つの完成を見たのではないでしょうか。
特徴
まずは師であるディアンジェリコから受け継いだ、洗練された美しいデザインが特徴と言えるでしょう。サウンドも概ねD'Angelicoと同様の特徴を持っており、アコースティックな響きが強いフルアコースティックギターと言えます。
D'Angelicoとの違いは弦振動に関わるパーツで、従来金属パーツが採用されていたところの殆どが木製パーツへと変更されています。ピックガードも木製(主にエボニー)のものをネックに取り付けてフローティング状態にすることでボディの金属パーツを極力減らす等、ダキストがボディ本体の響きを非常に重要視していたことが分かります。
また、後にジム・ホールが使用したことで人気となる機種であるDQ-JZに代表されるモダンなモデルも非常にクオリティが高く、伝統的なアーチトップギターのみではない強みを見せつけています。
モダンなモデルはエレキギターとしての側面を強調し、アンプ出力時のサウンドを意識した設計をしており、(余程極端なセッティングをしない限り)アンプを選ばず安定してD'Aquistoサウンドが得られるほどのクオリティです。
主な使用アーティスト
Jim Hall(ジム・ホール)
D'Aquistoの使い手と言えばこの御方。モダンジャズ期から活躍する大御所で、後のコンテンポラリージャズギタリスト達に非常に大きな影響を与える独特で前衛的なプレイが特徴でした。
愛用機はDQ-JZで、晩年にSadowskyのシグネチャーモデルに持ち替えるまで使い続けていました。(また、SadowskyのシグネチャーモデルもDQ-JZをベースにしたモデル。)バインディングまで着色された味わい深いサンバーストカラーを大変気に入っており、そのカラーリングは後にジム・ホール・サンバーストという名で呼ばれていたようです。
ダキストとホールは友人であり、ホールとの交流がダキストのギター製作にも影響を与えていたようです。